偽造と変造

【ざっくり説明すると…】


→文書には公文書と私文書がある


→「偽造」は他人が氏名や写真を偽ること

(=人物の同一性を偽ること)


→「変造」は他人が書面の内容を偽ること

(=本質じゃない部分を偽ること)



先日、Twitterで

このような質問を頂戴しました。



借用書に書いてある住所が

実はウソだった場合、

これって刑事責任や民事責任を追及して

訴えることができるのでしょうか。


今回は、刑法で処罰される

「偽造」と「変造」の違い、

そして

ウソの住所を書いたときに

慰謝料が請求できるのかについて

わかりやすい言葉で

噛み砕いて説明したいと思います。




結論から申し上げると、

借用書にウソの住所を書いてしまっても

「偽造」にも「変造」にも該当せず

犯罪にはなりません

何故か、というのを順を追って解説しますね。



まず、偽造うんぬんの話の前に
偽造される「文書」について
簡単に説明します。


「文書」は大きく分けると、
「公文書」
(免許証やパスポート、
住民票、裁判所の判決書、
公立学校の卒業証書など
国や市町村関係の書類)

「私文書」
(契約書、婚姻届、履歴書、

診断書、期末テストの答案など

権利義務や事実を証明する書類)

があると思ってください。



借用書は

個人の間における

お金の貸し借りが記されている書面なので

「私文書」に該当します

(今回は

この「私文書」だけにスポットを当てて

考えていくことにします)。



さて、次に

「偽造」と「変造」についてです。


「偽造」は聞いたことあること思いますが、
「変造」は聞きなれない言葉ですよね。


様々な考え方があるのですが

超絶めちゃくちゃ簡単に説明すると

「偽造」は他人が氏名や写真を偽ること、

(=人物の同一性を偽ること)

「変造」は他人が書面の内容を偽ること、

(=本質じゃない部分を偽ること)

だと思ってください。


たとえば

「私は10万円を借りました。(氏名:Aさん)」

という内容の書面を作るとしましょう。


この書面は、Aさんのことが書いてあるので

普通であれば

本当に借りたかどうか知っているAさんが作るべきですよね。


この書面を、

無関係のBが勝手に作ってはいけないワケです。


もしBが勝手に、

「私は10万円を借りました。(氏名:Aさん)」

という内容の書面を作った場合、

Bが勝手にAさんの名前を使っていることになります

つまり、

他人(B)が氏名や写真を偽っている

(=人物の同一性を偽っている)

ことになります。


これが「偽造」ですね。


履歴書とかでも

氏名がAさんなのに

他人(B)が自分の写真を貼って

Aさんになりすましたら

これも人物の同一性を偽っていることになるので

「偽造」です。


ですので「偽造」は

他人が氏名や写真を偽り

人物の同一性を偽る場合だと思ってください。



他方、「変造」は

他人が書面の内容を偽ること、

(=本質じゃない部分を偽ること)です。


さきほどの

「私は10万円を借りました。(氏名:Aさん)」

の例で考えていくと、

この内容の書面を作ったのは

間違いなくAさんだったとしても

Bがあとで「10万円」の部分を

「100万円」に書き換えてしまった場合ですね。


Aさんに関する書面をAさん自身で作っているので

人物の同一性を偽っているわけではありません

ただ、あとで

他人(B)が書面の内容を偽っています

本質じゃない部分をイジっちゃってるんですね。


これが「変造」になります。



では、ご質問にある

借用書にウソの住所を書いた場合は

どうなるのでしょうか。


これは「偽造」でも「変造」でもありません。


借用書にウソの住所を書くっていうのは

要するに

“本人”であるAさんが

事実と異なる内容の書面を作っただけです

“他人”であるBが氏名や写真を偽ったわけではないし

“他人”であるBが書面の内容を偽ったわけでもないですよね。


このような

本人が勝手にウソの内容の書面を作った場合は

処罰はされません(刑法161条を除く)。


なぜなら

ウソっぱちの書面を作ることなんて、

そんなの1人で勝手にやってなさいって話ですものね。笑




以上のように、


①他人(B)がAさんの書面の氏名や写真を偽ること

(=人物の同一性を偽ること)は

「偽造」で有罪

②他人(B)がAさんの書面の内容を偽ること

(=本質じゃない部分を偽ること)は

「変造」で有罪

③本人(Aさん)がAさんの書面の内容を偽ること

(=本人が勝手にウソっパ地の書面を作ること)は

無罪


になります。


場合分けが難しいですが

このように考えていきます

(※有形偽造・無形偽造の用語を使うと混乱するので

今回の説明は①有形偽造のみを端的に「偽造」と表現しています)。




以上が刑事責任

(犯罪になるかどうか)の話です

ちなみに民事責任(慰謝料)ですが

Twitterの回答に書いてあるとおり

慰謝料請求が認められたとしても

対した金額にはならないと思います。



「偽造」と「変造」の違い

ご理解いただけましたでしょうか。




なるべく難しい言葉を
使わないようにと心掛けるがあまり
逆にわかりにくくなって
しまったかもしれません。
 
また、専門家の方、 
法律の勉強をされている方にとっては
あまりに稚拙で言葉足らずで
説明不足であることも 
重々承知しております。 
 
ただ、このブログのコンセプトは
まったく法律を知らない方にとって
少しでも興味を持っていただく
きっかけになればと思い
始めたものですので
どうかご容赦いただけばと思います。


Lawyer Takahiro Kitagawa

弁 護 士 北 川 貴 啓